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大阪地方裁判所 昭和48年(ワ)1731号 判決

原告

加島ツヤコ

ほか九名

被告

富士火災海上保険株式会社

ほか一名

主文

被告富士火災海上保険株式会社は、原告加島ツヤコに対し、金一六六万六六六六円、原告加藤勝恵、同加島満男、同富子、同清敏、同博明、同光津代に対し各金四七万六一七六円宛および右各金員に対する昭和四八年五月九日から支払済まで年五分の割合による金員を被告株式会社神戸中川組と連帯してそれぞれ支払え。

被告株式会社神戸中川組は、原告加島ツヤコに対し、金三六四万三三六六円およびうち金三二九万三三六六円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告加藤勝恵、同加島満男、同加島富子、同加島清敏に対し、各金一〇四万七三九〇円宛、およびうち金九四万七三九〇円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を、原告加島博明、同加島光津代に対し、各金一一三万七三九〇円宛およびうち金一〇三万七三九〇円に対する前同日から支払済まで、年五分の割合による金員を(但し被告富士火災海上保険株式会社の支払うべき前項記載の金員の範囲内では同被告と連帯して)それぞれ支払え。

右原告らの被告株式会社神戸中川組に対するその余の請求および原告加島喜久蔵の被告らに対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告加島喜久蔵と被告両名との間で生じた分はこれを右原告の負担とし、その余の原告らと被告富士火災海上保険株式会社との間で生じた分は右被告の負担とし、右原告らと被告株式会社神戸中川組との間で生じた分はこれを一〇分し、その一を右原告らの負担とし、その余を右被告の負担とする。

この判決は原告ら勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告富士火災海上保険株式会社は、原告加島ツヤコに対し、金一六六万六六六六円、その余の原告らに対し、各金四七万六一七六円宛、および右各金員に対する本件訴状送達の日の翌日(昭和四八年五月九日)から支払済まで年五分の割合による金員を、被告株式会社神戸中川組は、原告加島ツヤコに対し、金四二六万〇八三四円およびうち金三九二万七五〇一円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を、その余の原告らに対し、各金一二一万七三八一円宛およびうち金各一一二万二一四三円宛に対する前同日から支払済まで年五分の割合による金員を、前記被告富士火災海上保険株式会社に対する金員の範囲内では両被告連帯して、各支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四六年四月二四日午後一時三〇分頃

2  場所 神戸市垂水区東垂水町二木谷八一〇の六番地先道路上

3  加害車 小型貨物自動車(神戸四ま五三四三号)

右運転者 原告加島喜久蔵

4  被害者 亡加島満義(以下亡満義という)

5  態様 加害車が事故現場附近道路の上り坂を進行中、側方のガードレールに衝突して横転し、同車後部荷台に同乗していた被害者が路上に投げ出された。

二  責任原因

1  運行供用者責任(自賠法三条)

被告株式会社神戸中川組(以下被告中川組という)は、加害車を所有し、且つ業務用に使用して、自己のために運行の用に供していた。

2  被告富士火災海上保険株式会社(以下被告富士火災という)は、被告中川組を被保険者として加害車につき自賠法第二条に定める責任保険契約を締結していた。

三  損害

1  受傷・死亡

亡満義は、本件事故により、頭部外傷Ⅲ型等の傷害を受け、即死した。

2(一)死亡による逸失利益

亡満義は、事故当時四九才で、被告中川組にいわゆる常雇の作業員として勤務し、これとは別に同被告から請負つた鉄骨組立作業に従事し、一カ月平均少なくとも金七万円の収入を得ていたものであるところ、同人の就労可能年数は死亡時から一四年、生活費は月額金一万五、七〇〇円であつたから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、金六七八万二、五〇四円となる。

算式(七〇、〇〇〇-一五、七〇〇)×一二×一〇、四〇九=六、七八二、五〇四

(二)  原告らは、いずれも亡満義の相続人(但し、原告ツヤコは亡満義の妻、同喜久蔵、同勝恵、同満男、同富子、同清敏は、亡満義と先妻加島ミニ子との間の子同博明同光津代は亡満義と原告ツヤコとの間の子)であるところ、法定相続分に従い、原告ツヤコは三分の一、その余の原告らは、それぞれ二一分の二宛、亡満義の右債権を相続した。

3  慰藉料

原告ツヤコにつき金一五〇万円、その余の原告らにつき各金五〇万円宛。

亡満義は妻子を抱えた一家の支柱であつたが、残された妻である原告ツヤコは病弱で稼動困難であり、原告らの受けた精神的苦痛は甚大であつて、右苦痛を慰藉するには、前記金額をもつて相当とする。

4  弁護士費用 金一〇〇万円。

右金員は、原告らが前記法定相続分に従つて負担した。

四  本訴請求

被告中川組は自賠法三条にもとづき、同富士火災保険株式会社は自賠法一六条一項にもとづき保険金額の限度において、原告に対し、請求の趣旨記載のとおりの金員をそれぞれ支払う義務があるので、同記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし被告中川組に対する請求につき、弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。

第三請求原因に対する被告らの答弁

一の1ないし5は認める。

二の1中、被告中川組が加害車を所有していた事実は認め、その余は争う。

三は、1の受傷・死亡の事実および2の(二)原告らの相続関係の事実を認め、その余は争う。

第四被告らの主張

一  亡満義の他人性について。

亡満義は原告喜久蔵ら数名の従業員を雇入れ、加島組の名で、被告中川組から、同被告において切断加工した鉄筋を工事現場に運搬したうえ組立てる工事を請負つていたところ、加島組の仕事の必要に応じて、同被告所有の加害車を同被告から借り受け、もつぱら加島組の業務遂行のために使用していた。他方同被告は、加島組に請負わせた工事については何らの指示、指揮を行つておらず、夜間同被告の敷地内に加害車を保管し、同車のキイを預ること以外には同車を亡満義に自由に使用させていた。

本件事故は、亡満義が、同被告から請負つた工事を遂行するため原告喜久蔵に加害車を運転させ、自らも荷台に乗つて、鉄筋を工事現場に運搬する途中において発生したものである。

したがつて亡満義は、本件事故当時加害車の運行を支配し、これによつて利益を得ていたものであつて、加害車の運行供用者に当り、自賠法三条の「他人」には該当しない。

二  過失相殺

仮に被告らに自賠法上の責任があるとしても、亡満義側にも次のような過失があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。

1  亡満義固有の過失

本件事故当時、加害車は約五〇〇ないし一〇〇〇キログラムの重量の積荷を積載していたが、右積荷は長尺物であつたため、運転席の屋根上から荷台を越えて、加害車の後方まで突き出していたにもかかわらず、亡満義は、右積荷に何ら固定の措置をとることなく、かつ、本来人が乗車すべきでない荷台に乗車して漫然佇立していた。

このように亡満義には、加島組の親方でありながら右のような荷物積載方法・人員乗車不適当を看過し、加害車の重心が高くなつてハンドルをとられ易い状態のまゝ原告喜久蔵に加害車を運行させた過失と、さらに亡満義自身、本来、人の乗車用に設けられた場所でない荷台に乗車し、しかも佇立していたという過失がある。

2  原告喜久蔵の過失

前記のとおり、本件事故当時、加害車は重心が高く不安定な状態であつたから、運転者である原告喜久蔵は、急激なハンドル操作を避け、さらに適宜減速して、車両の安定を保持しつつ進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、時速約五〇キロメートルで進行を続けたうえ、停車中の車両を避けるため左右に急にハンドルを切つたため、加害車のコントロールを失い、本件事故を発生させたものである。

そして、亡満義は原告喜久蔵の雇主であり、かつ実父であつて、同人を指揮監督していたものであるから原告喜久蔵の、右加害車運転上の過失は、亡満義の過失と同視すべきか、少くとも亡満義側の過失として評価すべきである。

三  混同

仮に被告らに賠償責任があるとしても、原告喜久蔵は、本件事故の直接の加害者であり、みずから損害賠償義務を負担する者である。したがつて同人が相続により取得した損害賠償請求権あるいは、同人が、亡満義の子としての地位から取得する慰藉料請求権は、混同により消滅している。

四  慰藉料の減額

仮に被告らに賠償責任があるとしても前記のとおり、本件事故の直接の加害者たる原告喜久蔵は、原告ツヤコにとつて、その子に当り、その余の原告らにとつては兄に当る。

このような親族関係からすれば、第三者が加害者である場合と異り、当然に遺族たる原告らの宥怒があるべきもので、それらの慰藉料額は減額さるべきものである。

五  損害の填補

本件事故による損害について、被告中川組は、次のとおり弁済をした。

1  処置料 一万円

2  診断書料 一、七〇〇円

3  死体収容車料 二万七、〇〇〇円

4  葬儀料 二五万五、三八〇円

合計 二九万四、〇八〇円

第五被告らの主張に対する原告らの答弁

一のうち亡満義が加島組の名で、被告中川組から工事を請負うこともあつたこと(但し本件事故当時は請負でなく、同被告の業務に直接従事していたものである)、同被告が加害車を保管していたこと、原告喜久蔵が資材を積んだ加害車を運転中に本件事故が発生したことは認めるがその余の事実は否認する。

被告中川組は加害車を所有し、同被告の鉄筋組立のための資材運搬用車両としてこれを使用し、かつ常時同被告方車両置場に駐車させ、同被告の係員においてキイを保管し、さらに、加害車のガソリン・オイル等の給油点検、修理、整備等もすべて同被告が行つていた。

そして、同被告は加害車を資材運搬に使用する際には、同被告の現場監督員の指揮のもとに、同被告の常雇作業員であつた原告喜久蔵に、同被告方資材置場と組立作業場との間を運転させていたものであり、本件事故も、同被告の業務としての資材運搬中に発生したものである。

なお亡満義は、同被告の常雇作業員であると同時に、一部の仕事については同被告からの請負作業もしていたが、いずれの場合においても、同被告の現場監督員により出欠をとられるなど、その指揮監督を受けていたものである。

したがつて亡満義が加害車の運行供用者であるとの被告らの主張は失当である。

二の1の中、亡満義が事故当時、荷台に乗車していたこと、および、積荷がロープで固定されていなかつたことは認めるが、その余の事実は否認する。亡満義は、従来、被告中川組から、作業員も資材運搬車に乗り込んで積荷の安全を確保し、資材と同時に現場に到着するよう指示されていたので、本件事故の際にも加害車の荷台に乗車していたのであるから、同被告側から右の点を亡満義の過失として主張することはできない。また積荷をロープで固定しなかつたことや、人が荷台に乗つていたことと、本件事故発生との間には因果関係がない。

二の2の中、原告喜久蔵に加害車運転上の過失があつたことは認める。しかし、同人は、亡満義から独立して、被告中川組の寮で別生活をしていたものであるから、亡満義側の過失として評価されるべきではない。

三は否認する。

四は争う。

五は認める。

理由

第一事故の発生

請求原因一の1ないし5の事実は、当事者間に争いがない。

第二責任原因

一  加害車の運行供用者について

原告らは、被告中川組が加害車の運行供用者である旨主張するのに対し、被告らはこれを争い、亡満義が運行供用者であつて、同人は自賠法三条にいう「他人」に該当しないから、被告らには同法に基づく責任がない旨主張するので、まず本件事故当時加害車の運行供用者が誰であつたかについて判断する。

被告中川組が加害車を所有していたこと、加害車の保管場所が同被告の敷地内であつたこと、同被告の従業員が加害車のキイを保管していたことは、当事者間に争いがない。

〔証拠略〕を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  被告中川組は、家屋建築工事の請負を業とするものであるが、その請負つた工事を施行するために、自ら雇い入れている従業員を使用するほかに、何人かの作業員を配下にしている程度まとまつた労働力を他に供給する能力をもつているいわゆる親方に、下請の形式で右工事を施行させてこれを完成することにしていたこと。このように下請の方式をとつたのは、同被告の立場からすれば不況の際に簡単に取引関係を断つことができるなどの理由によるものであるが、このような形で下請をさせていた親方は一〇数名おり、亡満義はその一人であつたこと。

2  同被告は、右の親方に下請負をさせた場合、同被告の従業員を工事現場に派遣し、下請負人の作業員の出欠を取り、且つ直接下請工事の監督に当らせていたこと。

3  亡満義は、かねてから原告喜久蔵ほか数名の者を配下の従業員として加島組を作り、自らはその親方として、昭和四四年ころから専属的に同被告の下請負人となり、主として同被告の業務の一部である鉄筋の加工および組立作業を請負つていたのであるが、加島組には独立した事務所等はなく、同組の作業員のうちには同被告の飯場に起居していた者もあつたこと。

4  同被告と亡満義との下請契約における請負代金については、亡満義が下請にかかる当該工事施行のために働かせた配下の作業員の数および稼働時間を基準として算出した金額を、同人の名で同被告に請求し、同被告において、当該工事の現場監督に当つた従業員によつて右請求内容を審査したうえ、毎月毎に亡満義に請負代金を支払つていたこと。

5  加害車は、加島組が同被告から請負つた鉄筋組立工事を施行するための資材等を、同被告の資材置場から作業現場まで運搬するために用いられ、かつ後記認定のとおり、加島組の作業員であつた原告喜久蔵が同車の運転に当ることが多かつたが、それ以外にも同被告自身の業務を遂行するために使用され、また同被告の従業員が同車の運転をすることもあつたこと。

6  右資材置場から従業現場に至るまでの鉄筋の運搬の仕事は、加島組が同被告から請負つた鉄筋組立工事の範囲外の仕事であつて、本来同被告が自らなすべき業務範囲に属する仕事であり、したがつて以前は同被告の所有車両(本件加害車購入前に使用されていたもの)を、同被告の従業員であつた訴外沖前静雄または浜名弘彦が運転して、これにあたつていたのであるが、その後原告喜久蔵が自動車の運転免許を取得してからは、便宜同原告が同被告の従業員に代つて本件加害車を運転するようになつたこと、しかし、その後でも同原告が休んだりした際には、同被告の従業員である浜名弘彦が加害車を運転して鉄筋運搬をしていたこと、右のとおり鉄筋運搬の仕事が本来加島組の仕事ではなかつたのに、原告喜久蔵が加害車を運転してこれを行つていた理由は、同原告ないし加島組が下請工事の発注主である同被告に対するいわばサービスとして同被告のために便宜これを行つていたものであり、したがつて加島組が同被告に対し加害車の借受賃等を支払つたことはなかつたこと。

7  加害車のキイは、同被告の従業員である訴外沖前静雄が保管し、原告喜久蔵は加害車運転の都度同人からキイを受取つて同車を使用し、使用後には同人に返還していたのであり、同車の燃料費、修理代等の費用は、全て同被告において負担していたこと。

8  本件事故当時、亡満義は前記のとおりの形式で同被告ら鉄筋組立工事を請負つていたのであるが、事故当日、原告喜久蔵は、同被告の資材置場で右工事に必要な鉄筋を加害車に積込んだうえ、同車に亡満義および訴外宮里広英、同長岡光義ら加島組の作業員を同乗させて、これを運転し、右資材置場から約一キロメートル離れた工事現場に向う途中、本件事故を発生させたものであること。

以上の事実が認められる。右認定に反する証人沖前静雄の証言および被告中川組代表者本人尋問の結果のうち「本件事故時における資材運搬の仕事は加島組の業務であると思う」との旨の部分は、前掲各証拠に照らしてにわかに信用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、前記当事者間に争いのない事実および認定の事実によれば、被告中川組は、加害車を所有し、同車の維持管理をなし、本件事故当時これを自己の業務に使用して、その運行を支配し、それによつて利益を得ていたものであることが明らかである。

他方右各事実によれば、亡満義は鉄筋の組立作業等については同被告から下請負の形式をもつてこれに従事していたものであるが、その企業としての独立性が甚だ稀薄であつて、経済的には殆んど同被告に従属していたものであるうえに、本件事故は、同被告の本来の義務である鉄筋の運搬作業中に発生したものであるから、本件事故当時における加害車の運行支配と運行利益はもつぱら同被告のみに帰属していたものであつて、亡満義は事故当時加害車の運行を支配し、それによつて利益を得る立場にはなかつたものと認められる。

したがつて本件事故当時における加害車の運行供用者は被告中川組のみであり、亡満義は自賠法三条にいう「他人」に該当するというべきである。

二  被告中川組の責任

被告中川組が加害車の運行供用者であり、且つ亡満義が自賠法三条にいう「他人」に該当することは前示のとおりであるから、同被告は同法条に基づき、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

三  被告富士火災の責任

〔証拠略〕によれば、被告富士火災と被告中川組との間で、請求原因二の2記載の保険契約が締結されたことが認められる。そして被告中川組が加害車の運行供用者であり、且つ亡満義が自賠法三条の「他人」に該当することは前示のとおりであるから、被告富士火災は、自賠法一六条に基づき、政令が定める保険金額の限度で、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

第三損害

1  請求原因三の1(受傷・死亡)の事実は、当事者間に争いがない。

2(一)  死亡による逸失利益 七四一万〇五六四円

〔証拠略〕によれば、亡満義は事故当時四九才で、前認定のとおり、被告中川組の作業に従事し、少なくとも一カ月平均七万円の収入を得ていたことが認められるところ、同人の就労可能年数は死亡時から一八年、生活費は収入の三〇%と考えられるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、七四一万〇五六四円となる。

算式七〇、〇〇〇×一二×〇・七×一二・六〇三=七、四一〇、五六四

(二)  権利の承継

請求原因三の2の(二)(原告らの相続関係)の事実は、当事者間に争いがないので、原告らは、亡満義の右権利を、法定相続分に応じ、原告ツヤコは三分の一(二四七万〇一八八円)、その余の原告らは、二一分の二(七〇万五七六八円)宛、相続したものと認められる。

3  慰藉料

本件事故の態様、親族関係、ことに本件事故の加害者たる原告喜久蔵が原告ツヤコにとつては夫の子であり、原告勝恵、同満男、同富子、同清敏にとつてはその実兄であること、原告らの年令その他諸般の事情を考えあわせると、原告ツヤコの慰藉料額は一二〇万円、原告勝恵、同満男、同富子、同清敏の慰藉料額は各三五万円宛、原告博明、同光津代の慰藉料額は各四五万円宛とするのが相当であると認められる。

なお、原告喜久蔵については、同人が本件事故の加害者であることからして、実父を失つたことによる悲しみは大であつてそれはもつぱら自己の不法行為に基くものであるから、右精神的損害の填補を他に求める慰藉料請求権は発生しないものといわねばならない。

第四過失相殺

1  原告喜久蔵の過失

原告喜久蔵に加害車運転上の過失があり、それによつて本件事故が発生したことは当事者間に争いがないが、同人の過失は、同人の亡満義に対する不法行為責任および被告中川組の亡満義に対する運行供用車責任を根拠づけるものであつて、もつぱら加害者側の過失に当るものであり、たとえ、前記のように、本件事故の被害者である亡満義と原告喜久蔵との間に父子関係が存し、また加島組の仕事を遂行する上で右両者間に実質的な指揮監督関係があつても、他の共同不法行為者に対しては損害賠償請求をする場合は格別、本訴請求のように、原告喜久蔵の不法行為責任を基礎とする被告中川組の運行供用者責任を追求する場合においては、原告喜久蔵の過失を同時に、被害者側の過失として損害額算定に斟酌することはできない。

よつて被告の、この点に関する主張は失当である。

2  亡満義の過失

〔証拠略〕を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、ガードレールによつて歩車道の区分がなされている、東西に通じる車道幅員約六メートルのアスフアルト舗装道路(以下本件道路という)上であり、同所付近は最高時速四〇キロメートルの速度規制がされていること。

(二)  本件事故当日、訴外宮里広英、同長岡光義、亡満義、原告喜久蔵の四名は、本件事故現場から約三〇〇メートル東方にある、被告中川組の資材置場から、本件事故現場の約七〇〇メートル西方にある、作業現場まで、加害車(一トン積の小型貨物自動車)を用いて工事資材である鉄筋を運搬しようとしたこと。

(三)  右鉄筋は、幅九ミリメートル、長さ一メートルのものが約二五〇キログラムと、同幅員で長さ五メートルのものが約二五〇キログラムであつたが、長さ五メートルの方の鉄筋は、加害車の荷台に納まらなかつたため、前記四名は、右鉄筋を同車運転席の屋根の部分と、荷台の後扉の部分に、かけ渡し、他方長さ一メートルの方の鉄筋は荷台に乗せ、いずれもロープ等による何らの固定方法もとらず、亡満義と、長岡光義とが荷台に乗つて、亡満義が加害車進行方向右側に、長岡光義が同左側に、いずれも佇立し、長岡光義が足で、長い方の鉄筋を支え、その状態で、原告喜久蔵が加害車を運転し、宮里広英が同車助手席に同乗して前記資材置場を出発したこと。

(四)  原告喜久蔵は、加害車を運転して、時速約五〇キロメートルで本件道路を西方に向け進行し、本件事故現場手前の路上にさしかかつたが、当時、同所付近の道路の両側に数台の車両が駐車していたため、同人はそれらの車両を避けようとして、減速徐行することなく、ハンドルを急激に右・左に切つたところ加害車はローリングを始め、制動不能となり、本件事故現場左側のガードレールに激突し、荷台に乗車していた亡満義、長岡光義両名は路上に投げ出されたこと。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告喜久蔵の供述部分はこれを採用することができない。

そして以上認定の事実からすれば、亡満義には、乗車設備のない加害車の荷台に佇立して乗車するという危険な方法で乗車し、かつ加島組の責任者である立場にありながら、その従業員である原告喜久蔵他二名をして、重量物である鉄筋を、加害者の重心が高くなるような形の、しかもロープ等による固定方法をとらない不安定な状態で積載させ、そのまま加害車を進行させた過失があるといわねばならず、そして本件事故とこれによる損害の発生については、亡満義の右のような過失もその一因となつているものと認められるところ、その過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として、原告らの損害の一割を減ずるのが相当と認められる。

第五混同

前記のように、原告喜久蔵は本件事故の加害者であり、みずからもまた不法行為者として、亡満義の損害賠償請求権を相続した原告らに対し、これを賠償する責任がある。

とすれば、同人が亡満義から相続した前記損害賠償請求権(亡満義の逸失利益)は、債権および債務が同一人に帰した場合として混同(民法五二〇条)により、消滅したものといわねばならない(不法行為債権につき、混同の法理の適用を排除すべき格別の理由はない)。よつて、原告喜久蔵の被告らに対する請求は、いずれも理由がない。

第六損害の填補

被告の主張五の事実は当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、右填補部分はいずれも本訴請求外の葬儀費用等の損害であり、かつ原告らは、右葬儀費用等を法定の相続分に応じて、負担したものと認められる。

よつて、原告ら(原告喜久蔵を除く)の各損害総額(前記第三の損害額に右、法定相続分に応じて負担した葬儀費等を加えたもの)に前記の割合による過失相殺をした残額から、右填補分を差引くと、原告ら(原告喜久蔵を除く)の残損害額は、原告ツヤコにつき三二九万三三六六円、原告勝恵、同満男、同富子、同清敏につき、各九四万七三九〇円、原告博明、同光津代につき各一〇三万七三九〇円となる。

算式

原告ツヤコ

{二、四七〇、一八八+一、二〇〇、〇〇〇+(二九四、〇八〇×三分の一)}×〇・九-(二九四、〇八〇×三分の一)=三、二九三、三六六

原告勝恵、同満男、同富子、同清敏

{七〇五、七六八+三五〇、〇〇〇+(二九四、〇八〇×二一分の二)}×〇・九-(二九四、〇八〇×二一分の二)=九四七、三九〇

原告博明、同光津代

{七〇五、七六八+四五〇、〇〇〇+(二九四、〇八〇×二一分の二)×〇・九-(二九四、〇八〇×二一分の二)=一、〇三七、三九〇

第七弁護士費用

本件事案の内容、難易、審理経過、認容額等に照すと、原告ら(原告喜久蔵を除く)が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、原告ツヤコにつき三五万円、その余の原告らにつき一〇万円宛とするのが相当であると認められる。

第八結論

よつて被告富士火災は、自賠法一六条に基づき、原告喜久蔵を除く、その余の原告らの被つた損害を、各人の法定相続分に応じた自賠責保険金の限度額内であり、かつ原告らの本訴請求金員の範囲内である原告ツヤコについては一六六万六六六六円、その余の原告らについては四七万六一七六円、およびこれに対する本件不法行為の後である、昭和四八年五月九日(訴状送達の翌日)から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、被告中川組は、自賠法三条に基づき、原告ツヤコに対し三六四万三三六六円、原告勝恵、同満男、同富子、同清敏に対し、各一〇四万七三九〇円宛、原告博明、同光津代に対し各一一三万七三九〇円宛およびうち前記弁護士費用を除く各金員に対する、前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、被告富士火災に対する前記認容額の限度では同被告と連帯して支払う義務がある。よつて、原告喜久蔵を除くその他の原告らの被告富士火災に対する本訴請求は全部正当であるからこれを認容し、右原告らの被告中川組に対するその余の請求および原告喜久蔵の被告らに対する本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 二井矢敏朗 及川憲夫)

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